コロナウィルス関連で思うこと〜基準の曖昧さと目的意識の欠如〜

 Twitterで書こうかと思ったけど、推敲した方がいいだろうから、こっちにしておく。まあ、本当に日本のダメなところが前面に出てるよね、としか思えないんだけども。とりあえず、参考文献として太平洋戦争での兵站の軽視がこれでもかと分析されている『失敗の本質』か、それがしんどいなら小説である『八甲田山死の彷徨』*1は挙げておきます。中井久夫の、『戦争と平和 ある観察』などのいくつかの論考も多分無意識的には参考にしていると思う。

 中井先生の「医学・精神医学・精神療法は科学か」(『徴候・記憶・外傷』所収)に、技術・戦術・戦略の違いの言及がある*2。個別の技術、それを生かす戦術があり、そもそもが大局観にたって何をどう攻めていくか、が戦略である。知らんけど。

https://twitter.com/afternoon_manga/status/1181494604329340929

 まあ、これで云うなら「戦略なき戦術」とよく云われるそれが、まさしく当てはまっている(現在形)事象だなあ……というのが結論です。「木を見て森を見ず」とかでもいい。

 

(1)初動の悪さ、を糊塗するための突然の自粛要請並びに休校宣言

 コロナウィルスに関しては、野党がいろいろ取り上げていたにも関わらず与党は向き合いもせず*3、時間稼ぎをしていた感が強いですね。

 転機となったのは、ダイヤモンドプリンセス号での岩田先生の告発でしょう。私は感染症については何もわからんので偉そうなことは云えないけど、市中病院に収容するとしてもそれだけのキャパを持つ病院もないだろうし、そのオペレーションを考えるよりは、船内を隔離環境として保つ、というのは一つの発想としてはありだと思う。

 

 ただ、問題は、「隔離環境として保った中でどうオペレーションするか」という発想が弱すぎたところにあるのだろう。

 最初、武漢からのチャーター便で帰国させて、そのあとホテル(旅館)に閉じ込めた、と云うプランをとったけれども、そこでも感染が疑われる人と見知らぬ人を相部屋にする、という、感染を増大しかねない策が取られていたらしい。

 船内もおそらくそうだろう。「清潔」と「不潔」が筒抜けになっている証拠画像を挙げた大臣がいたけども、感染者の分離をカタチ上はするけれども、カタチだけにしかなっておらず、なんのために分離が必要か、何を分離することが必要か、そのためにはどうすればいいか、が考えられていないところに問題がある、と云えるだろう。

 

 だから、船内で陰性だった人をそのまま解き放ち、「実は陽性だった」と判明したりとかが起きるのだろう。カタチだけ分離して、陰性というカタチが得られた人はそのまま下船させ*4、「やってる、けれども、失敗した」ということだ。これも要は、「目的」を見失い、「エビデンス」だけ求めるところから来ていると考えてもいい。

徳島県内で初の新型コロナ感染者 クルーズ船から下船:朝日新聞デジタル

 

 んで、この初動の悪さをどうごまかすか、考えたのだろう*5。「ここは派手に、バーンと行っちゃいましょう!」。そして急に「自粛の要請」をして、翌日に「学校休校の要請」を行ったわけだ。

 

 自粛自体は悪いことではないし、学校休校も必要な局面もあるだろう。

 しかし、その根拠が一切示されない。「○○では感染が広がっているから」という疫学的根拠が何もなく、全国一律。人数の多寡に関わらず、イベントは一切中止の要請。データに何も基づかず、ただただ「やってる感」を出したいが為に、急に宣言する。

 ここでも、大局観のなさが露呈する。

 

(2)NHKスペシャルについての疑問

www6.nhk.or.jp

 これも一応見た。

 

 情報を集めてちゃんとやっているんだなあ、ということは思ったんだけど、東北大の先生の話で一つ疑問だったのは、「多くの人に検査を、との声があるけれども、現在は封じ込めが成功しており、感染はトレースできている」という話。

 

 上記徳島の例を考えると、封じ込めが成功したとはとても思えない。私鉄乗ってるし、羽田から飛行機に乗ってるし。徳島の例以外にも複数あったはずだ。

 あと、最近では、このニュースもあった。

沖縄)検査結果待たず帰宅…陽性 厚労相「誠に遺憾」:朝日新聞デジタル

 このニュースに限らず、「水際対策」が機能していない例は、いろいろ噂レベルではあるけれども、聞く。

 

 そもそもの要請自体が意味不明。「二週間自宅またはホテルで待機。移動には公共交通機関を使うな」。

 

 歩いて帰れとでも? 空港からどうやって公共交通機関を使わずに帰れるというのだ? 自家用車を持つ家族または親族に、成田や関空まで来いと?

 

 お前は一休さん*6

 

 聞くところによると、空港での検疫はかなりザルのようだ。書類はいろいろ書かされて説明はされる。でも、逆に云うと書類を書かされるのみで、あとは何をされるわけでもない。制止されるわけでも対案を出してもらえるわけでもない。泊まるホテルを用意してもらえるわけでもない。

 

 じゃあどうするか。

 

 「まあ、じゃあ、いても仕方ないし、過ごす場所もないし、帰るか……」となっても、私は不思議ではない。 

 

 これも先に挙げた、カタチだけ重視、と云うのと同じことだと思う。要請はしたよ、でも私権の制限はできないから、あとはお任せしたよ、と。書類は書かせて、あとは知ーらね、だってオレ、自分の役割果たしたもん、ってことだろう。

 

 となると、封じ込めが成功しているかどうか、かなり疑問。

 

(3)3月三連休の観光客

 これは多くの人が感じているところだと思うけれども、三連休、観光客が久しぶりに戻ってきた。京都に。

 

 他府県ナンバーで右折レーンが埋まっていたり、あるいは細かい道に入り込んで迷っておられるらしき他府県ナンバーがいたり。観光地も賑わっていたらしく、銀閣寺近くにできたすみっコぐらしのお店は入場制限していたらしい。

sumikkogurashido.jp

 「外国人が減った中、観光収入増えてよかったね」……となるといいのだけど、ちょっとみなさん、ゆるみすぎじゃないですか??

 

 気持ちは分かる。2月末から急激に自粛が始まった。でも、人間、非日常を長く続けられるわけがない。人はパンのみにて生くるに非ず。楽しいこともしたくなる。

 

 「3月の連休、海外行くつもりだったのに、キャンセルになっちゃった……コロナも云われてたけど、そこまででもないかもね……ちょっとここらで、パーッと楽しいこともしたいよね、どうしよう」。

 

 「そうだ、京都、行こう」

 

 多分、こう考えた人が多かったんじゃないだろか。新幹線は恐い、でも車なら大丈夫だよね、屋外ならいいんでしょ、じゃあお花見とかも大丈夫じゃない?(実際、東京では花見に人があふれたらしい)

digital.asahi.com

 3月20日前後に大勢の人が集まる。ここでひそかにアウトブレイクが起こる。潜伏期間は2週間前後。

 

 となると、4月頭。ここがどうなるかが恐い。

 

(4)みんなビンボが悪いんや、からの目的意識の重要性

 これ、考えてみるに、「予算不足」以外の何ものでもないと思うんですよ。

 

 たとえば、国が早々に予算を付けて、「水際対策のため、空港周辺のホテルはすべて国が買い上げる。二週間そこに留め置く」とでもできたら、もう少し違うかもしれない。でも、現状は弱い「要請」だけ。

 そのために何ができるか。どういう情報提供をすればいいか。何があれば人は生きていけるのか。

 そこへの視点を全く持てず、なんかパーッとアドバルーンだけ上げるけどあとのことは放置して、時々急に無理難題を云って、終わり*7

 

  いろいろひどいなあ、と思うけど、嘆いてもいても仕方ない。

 学ぶべきことは何か。一連で、何が問題になっているのか。

 

 一つに、きちっと情報提供をして、基準を示す、と云うことだと思う。

 もう一つは、大局観を持ち、「なんのためにこれをやるのか」を示すことだろう。

 

 今回、いろんなところで目立つのが、基準の曖昧さ。ガイドラインが殆ど示されず、「各自で考えて」とか「自主的な判断で」とかで丸投げされる。やっていけないのは何か、許容範囲はどこまでか。なんでもそりゃあ「状況に応じて」であるのは当たり前で、でもその状況についての(ある程度の)線引きをするのが、責任者の仕事であろう。

 多種多様な意見を持つ人が集まっている。専門家だって意見が違うところはあるだろう。でも、その人たちの落としどころがどこにあるかを見極めて、「ここはこうしよう」と決断を下すのがトップの仕事であろう。具体的に動くのは下の人たちだ。その意見を吸い上げて、決断を下す。それこそが今、求められている。

 

 もう一つ、目的意識の欠如。なんのためにこれをやるのか、なんのためにこれが必要なのか。それが明確に示されないと、なにをやってもカタチだけになってしまう。

 クルーズ船にしても海外からの検疫にしても、「留め置く」のは手段であって、目的ではない。本来の目的は、「拡散を防ぐ」と云うことだ。そのために「留め置く」ことが有効で、「隔離する」という行動を取る。でも、そこが認識されていないから、ただ留め置くために留め置いたり、要請するために要請したり、等が起きる。つまり、「手段(留め置く)は理解しているけど、目的(拡散を防ぐ)が理解できていないため、“なんのために”にそれを行うかが分からず、結果として被害を広げてしまう」というのが今の現状なのだと思う。

 

 この、「目的意識の欠如」は、いろんなところで起きているのだと思う。なんのためにやるのか分からない会議、なんのために行うのか不明な研修会。ただなんだか目の前のことに精一杯やって、「精一杯やってるんです!」とは云えるけれども——そしてそれを賞賛する人もいるけれども——、でもそれは目的意識がないなら、あさっての方向に猛ダッシュしているだけになりかねない。

 

 ……こう書いていて、思い出した。最近書いた論文、「研究において大切なのは「目的」だ」、と云うものだったわ*8。それもからめて、またまとめます。とりあえず今回は、コロナ関連で終えておきます。

 

 

 

参考文献。

 

 

 

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

 

 

 

戦争と平和 ある観察

戦争と平和 ある観察

  • 作者:中井 久夫
  • 発売日: 2015/08/06
  • メディア: 単行本
 

 

 

徴候・記憶・外傷

徴候・記憶・外傷

  • 作者:中井 久夫
  • 発売日: 2004/04/02
  • メディア: 単行本
 

 

*1:あ、ずっと「行軍」と間違えてた……。

*2:もう少し詳しいのが別の本にあったと思うが、パッと思い出せずググって出てきたこれを挙げておく。

*3:しかしここ数年、「野党の云うことには耳も貸さない、なぜなら俺らは多数派だから」という姿勢が与党に強いですね。政権交代以前は、もう少し度量のある政党だったように思うのですが、自民党

*4:ただ、これ難しいのは、陰性だった人を留め置き続けられない、という問題もある。でもこれ、船内の隔離が成功していたら起きなかった例じゃないかなあ……。

*5:今のあの人たち、どうごまかすかしか考えてないと思う。森友からサクラまで。

*6:正確には、将軍さまから出てきた難題を一休さんが解決するのだが。

*7:NHKスペシャル、よかったのは、台湾での情報提供や対策を報じていたこと。台湾はきちっと責任者が毎日記者会見して、不安に駆られないための情報提供が行われている。マスクの配信システムもそうだし、「国民を助ける」姿勢がしっかりしていた。誰や、マスクを配るためにマイナンバーカードを普及させるという本末転倒なこと云ったのは。

*8:ただ、私、あまり「目的を持とう!」とも云いたくないのよね。それって容易にPDCAサイクル回したがる人になりかねないから。目的を明確にすることは大切なんだけど、目的を明確にしない場の重要性も同時に意識しておかないと、すぐにPDCAサイクルというマニ車を回したくなっちゃいそうなのよね……。